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レット症候群診断基準改訂版(2010年版)

(「Neul JL, et al. Rett Syndrome: Revised Diagnostic Criteria and Nomenclature. Ann Neurol 2010;68:944_950.」の和訳および著者らとの意見交換から)

出生時の頭囲が正常だが、生後頭囲の成長速度が遅れてきた時にも診断を考慮する 訳注2

典型的レット症候群の診断要件

1

回復期や安定期が後続する退行期があること a

2

すべての主要診断基準とすべての除外診断基準を満たすこと

3

支持的診断基準は必須ではないが、典型的レット症候群では認められることは多い

非典型的レット症候群の診断要件

1

回復期や安定期が後続する退行期があること

2

主要診断基準4項目のうち2つ以上を満たすこと

3

支持的診断基準11項目のうち5つ以上を満たすこと

主要診断基準

1

目的のある手の運動機能を習得した後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること

2

音声言語bを習得後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること

3

歩行異常:歩行障害、歩行失行

3

手の常同運動:手をねじる・絞る、手を叩く・鳴らす、口に入れる、手を洗ったりこすったりするような自動運動

典型的レット症候群診断のための除外基準

1

明らかな原因のある脳障害(周産期・周生期・後天性の脳障害、神経代謝疾患、重度感染症などによる脳損傷c

2

生後6ヵ月までに出現した精神運動発達の明らかな異常d

非典型的レット症候群診断のための支持的診断基準e

1

覚醒時の呼吸異常

7

成長障害

2

覚醒時の歯ぎしり

8

小さく冷たい手足

3

睡眠リズム障害

9 不適切な笑い・叫び
4

筋緊張異常

10

痛覚への反応の鈍麻

5

末梢血管運動反射異常 訳注3

11

目によるコミュニケーション、じっと見つめるしぐさ

6

側弯・前弯

脚注

a 明らかな退行が判明する前にMECP2の遺伝子変異が同定された患者において、3歳未満で機能的な退行を認めないが、その他の臨床所見がレット症候群を示唆する場合には、「レット症候群疑い例 (possible Rett syndrome)」と診断をつける。こうした患者は明らかな退行を認めるまでは6-12ヵ月おきに診察をして再評価するべきである。退行が明らかになれば、診断は「確定的なレット症候群(definite Rett syndrome)」に変更する。しかし、5歳までに明らかな退行を示さなかった場合には、レット症候群の診断は疑わしい。
b 習得した言語の喪失の評価は、患者が発語・発声の点で、最もできるようになった状態を基準とする。これは、明確な単語やより高度な言語機能の習得だけではなく、喃語訳注4を習得した後に、それが消失した場合でも、習得した言語を喪失したと判定する。
c 神経機能異常を直接生じると考えられる所見が、神経学的診察、眼科的診察、またはMRIやCTで示されなければならない。
d 正常の発達水準で、定頸(首のすわり)、嚥下、あやし笑いが認められない場合を指す。生後6ヵ月までに、全身性の軽い筋緊張異常や微細な発達異常訳注5が生じることは、レット症候群ではよくあり、除外診断基準の要件とはならない。
e ここに挙げた臨床症候が、現在または過去に認められれば、支持的診断基準を満たしたと考える。こうした症候の多くは年齢依存性に変化し、特定の年齢で明らかになるか優勢になる。そのため、非典型的レット症候群の診断は、年少例よりも年長例の方が容易となる。5歳未満の若い患者で、退行期があり、主要診断基準を2つ以上満たすが、支持的診断基準が5つ以上は認められない場合には、「非典型的レット症候群疑い例(probably atypical Rett syndrome)」と診断すべきである。
こうした患者はその後も再評価し、診断をその時の所見に合わせて変更しなくてはいけない。
訳注1 これまでに1985年から2002年にかけて、6つの診断基準が発表されてきた。1999年にMECP2が原因遺伝子として同定され、その後症例の解析を行う中で、2002年版の診断基準を含め、これまでの診断基準に適合しない症例があることが明らかになってきた。RTT Rare Disease Clinical Research Center (RDCRC)は、2006年から2010年にかけて、819人のレット症候群患者の診察・病歴聴取・遺伝子解析を行い、レット症候群の自然歴を明らかにして、新しい診断基準を2010年に提案した。この研究により、より重要で本質的な症状が明らかになり、明瞭・簡潔な診断基準が完成した。
訳注2 頭囲拡大の速度が鈍化することは、以前の診断基準(2002年版など)では、必須診断基準の項目に含まれていたが、必ずしも不可欠でないことが明らかになった。しかし、有名な症候であり、臨床医にレット症候群を鑑別診断にあげる可能性があること、特徴的な症候であることから、前文としては記載するが、診断基準には含めないことにした。
訳注3 環境や外界からの刺激(寒冷・疼痛・緊張、入浴など)により、末梢血管が拡張・収縮する反応。
訳注4 乳児期に出す意味のない声。生後2-3ヵ月頃のアーアー、ウーウー、5-6ヵ月頃のバーバー、ダーダーという声など。9-10ヵ月頃までに母音・子音を発音する技術が確立して、単語を話せなくても、成人の発話に近い発声が可能となる。声帯や咽頭・喉頭などの発声器官の運動練習という意味があると言われているが、初期は必ずしも周囲の人への意思伝達の意図があるとは限らない。
訳注5 レット症候群の患者の自発的な運動をビデオ解析した研究で、生後4ヵ月までの動きについても、診断がつく前に家族が撮影していたビデオを用いて、全体的な動き・動作を含めて評価し、全例で異常を認めた、とする研究がある。

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